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不運

まあ大体、ガソリンが切れかかっていた段階でついてないことは分かっていた。 しかしDVDは今日返さなくては延滞料を取られる。 徒歩で行ける距離でない事は自明。 それに折角の休みなんだから何かやっておいた方が良いだろう。 一日だらだらと過ごした、と思うと翌日からの仕事が面倒になりかねない。 「ああ、めんどくさ」 そう言いながら車のエンジンを掛け、アクセルを踏み、暫し街を快適に走行した後 『佐藤さん!!』 疫病神に呼び止められた。 / 「君も中々に人が良いよね」 隣で窓の外を眺めている相馬さんは、いつも通り何を考えているのか分からない笑顔だった。 「そうですか?」 聞き返すと、 「うん、そう」 と機嫌よさげに言われた。 普段制服姿しか見ない相馬さんは、私服だと少し若く見えた。 あと良からぬことを語るときのあのうきうきしている様子は、最早彼を幼く見せる域である。 「相馬さんって…お幾つでしたっけ?」 横顔だけ見ていても、全く分からない。 年上なのは知っているのだが、具体的に何歳かは想像も付かない。 「…知りたい?」 振り向いた彼は少し―――その、何というか形容しがたい顔をしている。 「………やっぱ良いです」 「遠慮しなくても良いのにー」 そう言いながらも、彼はまた、窓の外に視線を戻した。 彼はこちらのことをよく知っているのに、彼の事は殆ど知らない。 不自然なバランスだと思った。 彼がわざとそんな不均衡を作り出している理由が分からなくて困った。 しかし、悪い人ではないのだ。 悪いと言うよりは、どちらかというと――― 「あ、見て小鳥遊君。もう随分と景色が鄙びてきたよ」 相変わらず機嫌は良さそうなのに、何かしら薄暗い澱みが見えた気がした。 / 「あーあ、寝ちゃったね、小鳥遊君」 後部座席の少年が寝息を立てているのを確認して少し微笑ましくも思えた。 疲れが溜まっていたんだろう。 それなのに律儀に出てくる辺り、本当にお人好しなんだろうな、と思う。 「まぁシフト結構厳しいみたいだしな」 煙草をふかしながら運転する男の横顔を眺める。 どこかくたびれた様子に、少し胸が痛む。 「それにしても災難だったねぇ、佐藤君」 本来ならば全く関わらなくて良かったはずの温泉ツアーにしっかり関与させられ、 しかも彼自身は、単に車で往復しただけなのである。 ―――轟さんが居てくれれば良かったのか、或いは居なくて良かったのか…。 難しく、厄介な人間関係から一日ぐらい解放されたかっただろうに。 「…もうなんていうか、諦めてる」 短くなった煙草を、燃え殻入れに押し込みながら彼は言った。 「諦めるには早いんじゃないの?」 信号が黄色から赤に変わるのを眺めながら呟く。 「諦めるのに早いも遅いもねぇだろ。無理な物は無理だ」 顔は、態々確認するまでもないだろう。 本当に諦めが付いているのであれば、そんな言い方はしない。 熟々未練がましい―――情の深い男だなぁと思う。 「そう。じゃあさっさと別の恋が見つかると良いね、佐藤君」 一瞬、自分でも何を言ったのか解らなかった。 思考が、ホワイトアウト。 次に視界に入ったのは疾うに青に変わった信号だった。 「さ、佐藤君…信号変わってる…よ?」 幸いにも後続車が無い為、クラクションを鳴らされることは無い。 だが、信号が青になっているにも拘わらず止まっている、というのはどうなのだろう。 「…ねぇ、佐藤君…信号…」 怖かった。 怖くて運転席を見ることが出来なかった。 何故かアクセルも踏まずに、うんともすんとも言わない。 すやすやと寝息を立てる少年が心底羨ましいと思った。 自分も眠っていれば、良かった。 そうすれば、余計な事も言わずに済んだだろうに。 「…ごめん」 「何で謝るんだよ」 ああ、ついてないな。 彼も、俺も。 信号は再び黄色に変わった。

アニメを脳内補完したらこうなりました。 何故だ笑 2010/05/25