もうどこにもいない亡霊が、そっと鏡の中で嗤うMirroR
「この銃が、お前の額を撃ち抜く」 お前とは、誰だ。 「俺から、全てを奪ったお前を」 鏡は静かに己の姿を映していた。 銃口を鏡面に押しつける。 「俺を一度殺したお前を」 姿の見えない敵を必死に思い描く。 「そうでなくては、生きていけない」 演算する。 輪郭だけでも、掴み取ろうと。 「人間に、なってしまったから」 温かい電子の海から引きずり出して、陸で呼吸する方法を教えてくれたあの人はもう居ない。 あの人は、 彼には全てを捨ててでも殺したい何かがあったのだろう。 彼の銃口は、常に過去にしか照準があっていなかった。 形のないそれに具体的な姿を与えることができたのならば、彼は幸せだったのだろう。 悪意に、憎悪に、争いに、確固たる形を与えられたのならば。 せめて最後の数瞬だけは幸せだったのだと思わせてほしい。 「けれど貴方は違うと反論もしてくれない」 かつんと硬く冷たい音が響く。 引き金を引いても、精々、自分の姿を砕ける程度だろう。 人工的で完璧な試作品。 明かりを取りこんで、瞳が薄らと光る。 内側の自分と額を突き合わせてみたが、平たく滑らかな硝子の感触に溜息をつくことしかできなかった。 復讐とは 斯くも 無益だ それを見事に証明された。 データよりも確かに、暴力的なまでの憎しみとともに。 過去に捕らわれたままの迷い子の温もりを微かに残して、居なくなった。 復讐者の死に復讐しようなど、滑稽にも程がある。 無益な事を更に積み重ねようというのだ。 どうかしている。 「けれどそれでも復讐を欲するのは」 ―――私が、人間だから、だろうか。 硝子を透過して底面の金属に跳ね返る。 視神経を通して結ぶ像は、どこか 見慣れた哀しみの姿をしている2010.07.18 ティエリアが好きすぎて生きるのが辛い。