筋書きは誰が書いた。

似非演劇論

「最初から正直に言えば良い物を」 どれだけ捏ねくり回しても言いたいことは変わらないくせに。 脚本が悪いのか、演出が悪いのか、どこか回りくどい。 「俺は何も言ってないはずなんだけどな」 そう言ってにこやかに微笑む。 真っ青な背景を背負って彼は立っている。 淡い金髪が風に煽られて舞う。 人工の風に―ああそう、ここには人工のもの以外何一つとして存在しないのだが。 「言ってないな、確かに」 言葉にはしていなかった。 だが、言葉以外のものがあまりにも雄弁だった。 それこそ早々に足を洗ったとはいえ、元役者をなめてもらっては困る。 仕草、口調、視線。 そういった情報を集めて考えれば自ずと心の内というのは明らかになるものである。 他人に「なる」ことは、得意分野なのだ。 「けど、お前は演技が下手だ」 そういうと、何かに気付いたのか眉間に皺を寄せる。 いつものごとく大げさな様子で、やれやれ、と肩を竦めた。 「そりゃ、本物の役者と比べられたら困るな」 ウィリアム・シェイクスピア。 彼の動作はその手の劇にも似た過剰さを伴っている。 哀しみ、残念げな動作。 失望をこれでもかと露わにする。 総て、表層の物だとわざわざ主張するように。 そのくせ、本当に隠したいことはまるで喜劇のごとく派手に笑い飛ばそうとする。 わかりやすいんだよ、お前は。 「というより、別に役者でもないし、演じてるつもりもないさ。素で、こういう性格なんだ。悪いな」 それだけ言って首席殿はひらひらと手を振って現実へと逃げていった。 どんなに踏み込もうとしても、実際に土足で上がりこんでも、彼は気付かないふりをして逃げてしまう。 圧倒的な拒絶。 「だったらもっと上手く演れよ」 人工の青が、目を、刺す。 彼の瞳はもう少し優しい色だ。 もう少しだけ。 「役者を騙せるぐらいの役者になってみろよ」 或いは、観客になって俺の芝居を見ればいい。 絶対惚れさせてやるのに。 一度舞台から降りた俺は そうやって身勝手なことばかり思う。            

 2010.07.22  自信過剰なぐらいが早乙女アルト。