Shallow sleep
また夢を見ていたらしい。 その名前を呼ぶ自分の声にはっとして目を見開く。 微睡みの淵から引き戻され、昼下がりの柔らかな木漏れ日に目が慣れてくると、少し困ったような表情で青木がこちらを覗き込んでいた。 「お目覚めですか、薪さん」 「あ……」 まとまった睡眠を取りにくいせいで、ともすれば転寝してしまう。起こすのは、最近は大抵この部下の役目だ。 「すみません、起こしてしまって。あの、まだ時間はありますから休んでてくださいね」 夢見が悪かったのに気付いて辛抱強く揺り起こしてくれたのだろう。 もしかすると、気にしてわざわざ見に来てくれたのかも知れない。 「わかった」 頷くと、ほっとしたように青木が離れた。 「それと」 ごく自然に微笑んで付け加える。 「俺は鈴木さんじゃないです、薪さん」 何度同じことを言わせているのだ。自分の足で立たなければと思っていても、まだ時々躓いてしまう。 けれどその度に彼は、責めるでも呆れるでもなく手を貸して支え、引き起こしてくれる。 「あ、それ以外は何もおっしゃってなかったですから。大丈夫、安心してください」 相手が慌てて言葉を繋いではじめて、凝と見つめ返していたことに気がついた。自分でも驚いて目を逸らす。 「薪さん、あまり寝てないんでしょう。だから、これからせめて5分でも、何も考えずに眠ってください」 古傷を無造作に掴まれる感覚。知れば知るほど似ているのだ。不器用で嘘が下手なところも、脆いのではない弱さも、優しさも。 重ねているわけではない。 次に同じことが起きたとして、やはり彼の頭を狙ってやることは出来ない、そういう意味だ。 「眠ってる間に何か言うんじゃないかって、気にされてるみたいだけど」 遠慮がちだった声が、どことなく引き締まった。 言いにくい事を思い切って口にするはっきりとした語調と、人を安心させる優しい強さとがない交ぜになった言葉は、俺の脳へ真っ直ぐに届く。 「俺がついてます。傍にいて、誰も来ないようにちゃんと見張ってますから」 青木は撃てるだろうか。この脳を撃ち抜いて、すべてを葬り去ってくれるだろうか。 いや、青木しかいない。青木で最後と決めている。どんな形であれ失うことに、自分の精神は二度と耐えられやしないのだから。 だから差し出される手を取ってはならない。支える腕に甘えてはならない。彼が撃てなくなってしまわないように。 わかっている、踏み込むべきではない。踏み込ませてはいけない。しかし理性と衝動は引き裂かれる。 「俺が見てるのが気になるなら、むこうを向いてます。蒔さんが何を言っても聞いてしまわないように、耳を塞いでます。だから、休んでください」 何度突き放しても辛抱強く見守ってくれるから、俺はまた、青木を拒めなくなってしまうのだ。 「……時間になったら起こせ」 「はい。ちゃんと、ここにいますから」 眩しく笑うその姿に背を向けて、閉じた瞼の裏側がじくりと疼いた。 2011/04/08 貰い物。改行/タイトル/変換訂正は独断で。 秀純のサイトはこちら(別ジャンル/というかドラマジャンル注意)