キミは、隠す。

ボクには判らない。

それがキミの幸せなのかい?


隠してるんだ。

「スザク君ってばほんと無神経だよねぇ〜」 上司は薄笑いを浮かべつつ、僕を見た。 「そうですか?」 少々の憤慨も込めて返す。 今は、彼にコミュニケーション法を教える役のセシルさんが不在だ。 その為なのか、何なのか、随分な言い様だ。 「そうだよ、キミ気付いてないでしょ?」 常に内心の読めない薄笑いなのだ。 何を考えて急にこんな事を言ったのか。 「ロイドさんよりはましですよ」 精一杯の皮肉を言ってやる。 「ボクはきちんと自分のことは把握してるよ〜」 それはどうだかわからないのだが。 「なら、僕の何処が無神経なんですか?」 言われるからには何かしら有るのだろうから。 すると、彼は目に見えて笑みを増した。 「キミ、最近誰かに抱かれたでしょう」 何を言ったのか理解するのにだいぶと時間がかかった。 「…どういう意味ですか」 「言葉のま〜んま。キミが思ったとおりの意味だよ」 「話が分かりません」 しらを切ることにした。 「本当に分からないかなぁ」 普段通りの笑みが、今は徒僕を苛々とさせる。 ああ、駄目だ。落ち着かないと。 「ええ、全く」 この人に構ってないで手早く着替えてしまおうと上着を脱いだ。 「ほら、そういうとこ」 如何に同じ笑いだろうとこのぐらい分かる。 これは、してやったり、の笑みだ。 「は?」 状況が飲めなかった。 何に対するしてやったり、だ。 「痕、残ってるよ」 自分の首筋を指差して、にやにやと笑う。 「あぁ、猫に噛まれたんです」 学校で飼っている猫。 前に彼にもその話をしている筈だ。 「へぇ〜そうなの」 「そうですよ。妙な勘違いしないで下さい」 ふーん、と彼はさっきより笑みを深めた。 何も、拙いことは言ってないはずだが… 「ざーんねんでした。痕が残ってるのは此処だよ」 肩に、彼の長い指が触れた。 「な…」 「普段服の下になってるようなところは噛まれないよね」 因みに、首には痕なんて残ってないから。 と、へらへら笑っている。 「あれ…おかしいな」 「言い訳慣れしてるねぇ…でも、データは誤魔化せないよ」 今までのにやつきを一気に曇らせた。 いつもと違う真剣な表情に、少し、身構えざるを得なかった。 「キミ、昨日何してたの?一週間前は?」 こう言う時こそ、いつもみたいに嫌な笑い方をすればいいのに。 そうすれば、冗談で流せるのに。 なんで、こんなに真剣な顔をするのか。 「それは…普段通り、だと」 「違うね。キミ、その日は将官に呼び出されてたよね」 「…はい」 「あの人、もの凄く悪趣味なんだってね」 淡々とした口調が、対応を難しくする。 「…そうなんですか?」 「イレヴンの少年を、抱くのが趣味だって」 覗き込んで来る目には、一切迷いがなかった。 「へぇ、そうなんですか」 「噂、だけどね。…枢木准尉」 「何ですか?」 「何をしようがキミの勝手だけど、翌日のランスロットとの適合率が下がるようなことはしないでくれる?」 この人もだ。 僕と同じ。 「…はい」 「判ればいいよ」 これ以上話すことはない。 ろくに挨拶もせずに、部屋を出た。 「…厄介な子だねぇ…全く」 壁にもたれ掛かって、独り、呟いた。 …自分もそこそこ厄介だとは知っていたのだが。 「どうして、全部数字にならないのかなぁ」 有るか無しかの二進数の世界なら、どれ程楽だったか。 「だったら、こんな風に不可解な気分にもならなかったろうにねぇ」 溜息を吐いて、口を閉じた。 彼が本音を隠して生きる以上、ボクも本音は隠しておこう。 嘘と真は釣り合わないから。 精々、上手い嘘を探しておいで。 もう暫く付き合ってあげるよ。 ボクはキミの上司だから。 2010/09/10 ロイドさんが好き。大好き。 あれはいい白衣と眼鏡。 くるるぎは一期の方が好きです。